冬の旅/辻原登

冬の旅 辻原登著/集英社

物語は主人公の刑務所出所から始まる。
その彼の転落人生を描いた作品。

舞台は大阪のディープゾーン「西成」の他、関西。飛田新地も出てくる。
阪神大震災といった時事ネタも織り込まれ読み応えのある話だ。

が、この本を読んでも幸せな気分にはなれない。
この本を読み終わってもスカッとした気分にはなれない。
読後に残るのは、疲れと、脳内のモヤっとした感覚、嫌悪感だった。

不幸な現実に正面から立ち向かう勇気のない主人公の落ちていく姿。
物語では運命的な出会いがあり、躓きの連続。
困難に立ち向かう「心」の強さの欠如が、
終わりの無い負の連鎖を呼ぶ。

帰属するべき共同体の最低単位、主人公の場合は夫婦。
それにすら見放され、仕事もなく、後は、投げやりになる。
八方塞がり出口なし。

辻原登「冬の旅」
それはシューベルトの同名曲と同じ情景…
文学は、芸術は、絶望の淵を描くことも許される。
後は受け取る側にゆだねられるだけだ。

・・・・・・・・・・・・・・・・・

僕の書評基準は、頭の中を活性化してくれること。
脳内をぐるんぐるんとかき混ぜてくれれば良しとする。
湧き出てくるイメージでドキドキしたい。
ところが、この筆者の表現スタイルが僕には合わなかった。
ディテールへのこだわりがマイナスに働いてしまったようだ。

(★☆相性は悪いけど印象に残る本でした)