坊っちゃん/夏目漱石

坊っちゃん夏目漱石

道後温泉がらみの仕事が入りそうなので、「坊っちゃん」を読んだ。
中学ぐらいが初読だと思うのだがハッキリしない。
内容は忘れても、夏休みの課題図書だったことだけは覚えているから不思議だ。

図書館で手にとったら、借りてくるのも嫌になる分厚い全集版。
かた苦しい文学本というイメージもあったのだが、意外にスラスラと読める。
丁寧な送り仮名のせいもあるが、「おれは」ではじまる語り口調が読みやすい。
短編だったので、2時間ぐらいだろうか、
借りて帰るつもりが図書館の勉強机で読みきってしまった。

ストーリーは単純。
都会育ちのやんちゃで短気な「坊っちゃん」が中学教師としてド田舎の四国に赴任する。
なんせお坊ちゃまだから田舎の風土が合わない。
そこで出会った嫌味な先生を最後にはボコボコにして東京に戻るというお話。
勧善懲悪といっていいのだろうか?
Might is right=力こそ正義を嫌う主人公が、
最後は力に頼ってしまうところが文学している。

一番関心したのは人物描写。
登場人物は多いのだが、それぞれが生き生きしている。
個性的というより、典型的なタイプに類別しているところが凄い。
教師にしても下宿先の大家にしても、それぞれにタイプが違うのだ。

その上、赤シャツとか山嵐とかイメージ直結のあだ名にしてあるから、
スルスルと頭の中に入ってくる。

読み終えてから考えたのだが、生徒にはキャラが与えられていない。
これは重要だろう。子供はどこでも誰でも一緒なのだ。
いたずらで、差別者で、いじめが好き、罪のない存在だ。
大人を見て育つまっさらな天使、悪魔。

教師なんかいつでもやめてやるという俺=坊っちゃんにも感情移入がしやすい。
言葉足りずで論争はヘタ、曲がったことが嫌いで、思慮深い方ではなく思いついたら即行動。
好き嫌いがハッキリしていて、人の好意を単純に信じてしまうところがある。
ちょっと賢いフーテンの寅さんというか、愛される日本人像なのだ。

道後温泉の参考にはまったくならなかったが(名称も変えられている)、読んでよかった一冊。
中学の時に読んで感銘を受けなかった理由もわかる。
大人の話だよ「坊っちゃん」は。
読書感想文で子供に読ませても意味なしだろう。

★★★(明治時代に興味がわく、次は坂の上の雲でも読むか…)