匿われている深い夢/岩井志麻子

匿われている深い夢 岩井志麻子著 講談社

オレの短編集の読み方は一日一話。
アラビアンナイトのようだが、そうでないと作品イメージが交錯する。
スカだと次の短編に進む場合もあるが、
たいていの場合、最初でつまずくと読むことをやめる。
次話を読みたいとワクワクさせる短編集は僅かだ。

岩井志麻子の短編集はその点ハズレがない。
一話を読み終えて、次の話を読みたくなる。
我慢するのが辛いときは、コーヒーブレイクで、もう一話。
筒井康隆にハマっていた高校時代を思い出す。

リズム感のある独白文章は、背景で音楽が鳴るような感覚。
港のヨーコ・ヨコハマ・ヨコスカ、なのだ。
半ページで、時には一段落で、
登場人物の容姿や人となりを読者に想起させる。
…上手い。
読みながら、感心させてくれる作家なんて、めったにいない。

「匿われている深い夢」は10編のモノローグ。
それぞれの短編で、ワケありの女性主人公が、
ズタボロの人生を、「夢」とリンクさせながら語る。

10編の中で一番印象的だったのは、「顔の裏の滅びた町」。
絵画ミステリーとも言えるので、内容は伏せるが、ドラマチック。
エロチックなサスペンスホラー映画に仕立て直せるストーリー。
どれから読んでもハズレはない。

★★☆(これ以上がまだあるはずという欲張りな☆)